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横田正俊記念賞 第3回 受賞論文 (田村 次朗 氏 )

論題:「同調的平行行為と反トラスト法」

田村 次朗 氏
法学研究60巻8号(1987.8)、60巻9号(1987.9)

論文要旨

 寡占市場では,企業間で同調して価格を引き上げる,いわゆる同調的平行行為が起こりやすい。これが各企業の個別の戦略の結果であるのならば,行為の一致を共謀として非難することはできない。また,構造規制を行なうことも余り現実的な策とは言えない。  しかし,実際,市場にはもろもろの要因が存在し,それが寡占企業にとって,相互の行動に確信を持てないようにさせている。従ってこうした市場の不透明さを排除し,価格を硬直化させるために,各企業が「何らかの共謀」をしてくると考えられ,反トラスト法はその点に着目 し,規制して行くべきである。
 シャーマン法一条は,共謀要件が明文化されているため,伝統的な意味での「共謀」の概念から抜け切れていない,多くの学者も,裁判所も行為の一致だけでは良しとせず,プラス・ファクター(暗黙の共謀を推定させるような要素)の存在を要求している。
 しかしポズナーは,一歩進んで,経済的な証拠が,共謀を結論づける十分な根拠となればよいとして,共謀を促進する市場条件と経済的兆侯を採用することを主張する。
 連邦取引委員会は,1980年頃から,経済的アプローチに焦点をあわせ,積極的に,合意の証拠なしでも,「協調容易化行為」を不公正な競争方法として連邦取引委員会法五条違反とし,規制することを始めた。連邦取引委員会法五条は,シャーマン法違反の可能性のある行為を,萌芽段階において規制することを目的の一つとしており,伝統的な意味での「共謀」が存在しなくても,理論的には規制できると考えられる。ところが裁判所は,最近のエチル事件で連邦取引委員会法五条の場合,仮に暗黙の合意の存在が明らかでないのならば,少なくとも「なんらかの競争に対する抑圧の印」がなければならないとして,連邦取引委員会の主張を斥けている。しかしこれは伝統的な「共謀」要件を満たさなくても,「何らか の共謀」が証明されればよいことを示唆したものと考えられる。
 これを受けてか,連邦取引委員会は,協調行動に関して寡占における市場構造―行為―市場成果のアプローチを用いることが有効であるとし,さらにそれぞれのファクターを反競争的効果の強さの度合によって分類した,ぺーパーを出している。この連邦取引委員会のぺーパーの 連邦取引委員会法五条に対するアプローチは,最近の裁判所の傾向に柔軟に対応できるようなアプローチであり,ポズナー流の経済的アプローチを連邦取引委員会法五条に関してさらに具体化するものと考えることもできる。
 以上のことを考えて見ると,現段階で条文上,また解釈上有効でかつ実行可能なアプローチは,ポズナー流の経済的アプローチにその他のプラス・ファクターをある程度生かした手法を,共謀要件も刑罰もない連邦取引委員会法五条で行なうことかもしれない。但し,企業の正当 な事業上の判断を阻害しないため,連邦取引委員会法五条の要件として,合意までは要求しないにしても,「総意の形成」(ある種の意思の連絡)を要求すべきであろう。
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