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横田正俊記念賞 第36回 受賞論文 (伊永 大輔 氏)

論題:「課徴金制度 : 独占禁止法の改正・判審決からみる法規範と実務の課題」、「課徴金制度全体をめぐる考え方」、「課徴金減免制度における調査協力減算制度の意義と課題」、「課徴金制度の改正 : 令和元年改正の評価と課題」

伊永 大輔 氏(東京都立大学大学院法学政治学研究科教授)
「課徴金制度 : 独占禁止法の改正・判審決からみる法規範と実務の課題」第一法規(2020)、「課徴金制度全体をめぐる考え方」ジュリスト1550号43頁以下 (2020)(以下、論文A)
「課徴金減免制度における調査協力減算制度の意義と課題」公正取引839号19頁以下(2020)(以下、論文B)
「課徴金制度の改正 : 令和元年改正の評価と課題」法律時報1148号53頁以下(論文C)
ほか課徴金に関する一連の研究業績

論文要旨

 著書「課徴金制度:独占禁止法の改正・判審決からみる法規範と実務の課題」は、独占禁止法に「課徴金制度」が導入された1977年から現在までの法改正の経緯や判審決の蓄積を踏まえつつ、課徴金制度の全容をもれなく研究対象としたものである。
 課徴金制度は、独占禁止法による規制の重要性が認識されるたび、強化・拡大が行われてきた。しかし、導入から40年以上が経過し、制定当初の予想を超えた事態が生じ、複雑多様な取引実態への適用に苦慮する場面が目立つようになってきた。また、増改築を続けてきた課徴金制度の規定の整合性が徐々にとれなくなってきた。こうした問題を踏まえ、課徴金制度の趣旨・目的から見て合理的な規定内容となっているか、目的妥当な結論を導くためには条文をどのように解釈すればよいか、といった点が検討される必要が高まっている。
 本書では、こうした検討を行う上で、「課徴金の性格」(第1章)、「算定率の加減算」(第2章)、「課徴金減免制度」(第3章)、「当該商品・役務の売上額」(第4章)、「私的独占・不公正な取引方法」(第5章)、「新制度の課題と将来像」(第6章)に分け、蛸壺的に発展している課徴金制度をめぐる法的論点を統合的に整理・分析し、この制度の趣旨・目的に沿った本来機能が発揮される方向での解釈を検証している。
 第1章では、独占禁止法改正の歴史や判審決を踏まえながら、課徴金の法的性格を解明する。規定の変遷を詳細に検証することで、現在では名実ともに違反抑止が法目的となっており、「不当利得の剥奪」は比例原則に見合った適切な課徴金水準を見出すための1つの立法政策上の指標にすぎないと述べる。
 第2章では、加減算規定の合目的性を検討し、問題の整理と課題を提示する。規定の複雑化に伴い混乱した議論を整理した上で、課徴金規定の文理と趣旨を重視しつつ、判審決との整合性や法解釈の限界を見極めて最大限の具体的妥当性を探る。
 第3章では、課徴金減免制度の規定解釈だけでなく、その付随的効果までも検討対象とする。例えば、減免適用者に対して排除措置を命じないとの実務に疑問を呈し、米国のリニエンシー制度を参考に損害賠償訴訟や刑事訴追への影響なども検討している。
 第4章では、EU競争法との比較法的視点を交えつつ、当該商品・役務の解釈論題を中心に、実行期間や売上額の論点整理や条文解釈が行われている。特に談合事案における具体的競争制限効果の機能と意義に触れつつ、先例を踏まえた法的判断枠組みを提示するなど、学説からの批判が多かった法概念についても前向きに評価するとともに、立証負担とのバランスに配慮して法解釈を展開している。
 第5章では、特に関心の高い優越的地位濫用だけでなく、私的独占ほか全ての課徴金算定規定が取り扱われている。未だ課徴金算定事例のない行為類型も多いが、規定の趣旨に基づいた解釈のあり方が考察されている。
 そして、最終第6章では、令和元年改正の評価と課題に触れ、その将来像が検討されている。特に令和元年改正については、規定の詳細な検討というよりは、これまでの分析を踏まえ、改正の理論的背景や残された課題を浮き彫りにするものとなっている。
 これら本書の内容は、2014年11月から2017年7月までの「公正取引」における連載論考を中心に単著18本の論文を基礎にして構築されている。本書が上梓された後も、令和元年改正に関する特集に寄稿した3論文(論文A、論文B、論文C)において、現行課徴金制度の意義と課題が詳細に検討されている。
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