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独禁法よもやま話(第17回)

第17回「下請法と独占禁止法」

キョウ子さん
 昨年12月27日に政府は,「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」を公表しました。この中で,労務費や原材料費、エネルギーコストの上昇を取引価格に反映しない取引は、下請法上の「買いたたき」に該当するおそれがあることや,このような取引が下請法の適用対象とならない場合には独占禁止法の優越的地位の濫用に該当するおそれがあることを明確化すべきであるとし,併せて法執行の強化を求めています。
 そもそも,下請法の適用と独占禁止法の適用とはどのような関係にあるのでしょうか。
どっきん先生
 まず,下請法の適用対象は,①取引の内容と②取引当事者の資本金関係(資本金要件)から決まります。
 具体的には,①については,製造委託,修理委託,役務提供委託及び情報成果物作成委託の4つの委託取引のみが対象となります。その上で,②について,例えば製造委託であれば,ア)資本金3億円超の事業者が資本金3億円以下の事業者(個人を含む)に対して製造委託する場合,イ)資本金1千万超3億円以下の事業者が資本金1千万以下の事業者(個人を含む)に対して製造委託する場合に下請法の適用対象となるわけです。そして製造を委託する側を親事業者,受託する側を下請事業者と呼び,親事業者には買いたたきなどの禁止行為が課せられることになります。
 このため,先ほどのパッケージの記載にもあるように,例えば,資本金2億円の事業者が資本金 1,500 万円の事業者に製造委託する場合には,前記のア),イ)のいずれの資本金要件を満たさないことから下請法の適用対象とはなりません。また,売買などの委託以外の取引も適用対象外となります。
 一方,独占禁止法の優越的地位の濫用の規定(独占禁止法第2条第9項第5号)の適用においては,このような取引の内容や資本金要件といった制約は存在しないので,同規定の要件さえ満たせば独占禁止法の適用対象となるわけです。
キョウ子さん
 独占禁止法(優越的地位の濫用)の適用範囲の方が広そうですね。 それでは,いわゆる下請取引の不当な行為については,そもそも下請法ではなく,独占禁止法を適用すればよいのではないですか。
どっきん先生
 そうでもないのです。下請法は,昭和31年に制定されましたが,当時,下請代金の支払遅延等の行為を独占禁止法の規定に基づき対処しようとすると,その調査に相当の時間がかかる上に違反と認定することが困難だという問題がありました。下請法の制定理由の一つは,この問題を解決するために,簡易・迅速な処理ができる規制体系を設けることでした。下請法が独占禁止法の補完法といわれるゆえんです。独占禁止法でなんでも解決できるというわけではないのです。
キョウ子さん
 具体的に下請法による規制と独占禁止法(優越的地位の濫用)による規制との間で,どのような違いがあるのですか。
どっきん先生
 優越的地位の濫用は,①優越的地位,②濫用行為,③正常な商慣習に照らして不当という3つの要素から判断されます。このうち,①の優越的地位の意味については,法律上は「自己の地位が相手方に優越していること」とだけ書かれており,これ以上の具体的な定義が置かれていません。公正取引委員会がガイドラインの中でその判断要素を示しているのですが,それでも優越的地位濫用事件に関する訴訟においては,優越的地位にあるかどうかがいつも大きな争点の一つになっています。
 一方,下請法においては,先ほど説明したとおり,資本金要件だけで親事業者と下請事業者が定義されますので,優越的地位に相当するような論点は生じないことになります。
 濫用行為についても,下請法においては,下請取引の実態に合わせて,法律において11の禁止行為が具体的に特定されています。また,親事業者は下請事業者に対して発注書面の交付義務や書類の保存義務もありますから,書面による事実確認も容易です。このように優越的地位の認定よりは迅速に行える仕組みとなっています。
 したがって,下請取引については,まずは下請法を適用する,下請法の適用対象とならない場合には独占禁止法(優越的地位の濫用)を適用するというのが実務上の扱いではないかと思います。
キョウ子さん
 ところで,下請法の「買いたたき」とはどのようなものなのでしょうか。
どっきん先生
 「買いたたき」という法律用語があるわけではありませんが,下請法において親事業者の禁止行為の一つとして「通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」を規定しており(第4条第1項第5号),この行為を一般に「買いたたき」と呼んでいます。
キョウ子さん
 「著しく低い」や「不当に」といった用語ではどのような場合に違反となるのか分かりにくい気もしますが。
どっきん先生
 他の禁止行為の規定と比べるとそのように言えるかもしれませんね。ビジネスにおいてはそれぞれの取引先との関係を見ながら価格交渉が行われるものですから,買いたたきについて一律的な基準を設けるのはなかなか難しいということだと思います。そこで,公正取引委員会では,下請法の運用基準を作成して,買いたたきの考え方を明らかにするとともに,買いたたきを含む各禁止行為について,違反行為事例を数多く示しています。
キョウ子さん
 実際に買いたたきに該当するとして措置を採られたような事例はあるのですか。
どっきん先生
 下請法においては,親事業者の違反行為が認められた場合には,公正取引委員会が勧告することとなります。そして,勧告した場合には,原則として事業者名や違反事実の概要等が公表されます。買いたたきについて勧告した事例は,公表されるようになった平成16年以降では2件(平成19年及び平成26年)あります。
 また,勧告には至らない指導事例は多く,令和2年度だと公正取引委員会では830件の指導を行っています。なお,中小企業庁においても勧告を除く下請法の執行を同様に担っています。
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