第9回 「公正取引委員会の委員長・委員の役割」
公正取引委員会の委員長が交代しましたが、委員長はどのように選ばれるのでしょうか。
公正取引委員会の委員長・委員になる資格は、年齢が35歳以上で、法律又は経済に関する学識経験があることです。こうした資格者の中から人選が行われ、内閣総理大臣が任命します。また、任命の際には、国会の衆議院と参議院の両方の同意を得る必要があります。
国会での手続は、まず、内閣から衆議院・参議院それぞれの議院運営委員会に候補者が示されると各党・会派で賛否の議論が行われます。委員長の任命の場合には、この間に、各議院の議院運営委員会で、委員長候補者の所信表明とそれに対する質疑が行われます。その後、各議院の本会議で採決が行われ、多数決で同意するかどうかを決定します。国会の同意が得られなかった場合には、候補者選びからやり直すことになります。
委員長の任命の場合には、天皇陛下による認証式も行われます。
実際に委員長にはどのような方が選ばれているのでしょうか。
歴代の委員長の経歴を見ると、官僚経験者が多くなっていますが、就任前には裁判官、検察官、日本銀行理事であった方もいます。
<参考>歴代委員長の主な経歴
官 僚:財務省(旧・大蔵省)(事務次官 、国税庁長官、銀行局長)、会計検査院長、国土庁事務次官、東京高検検事長、房副長官補
その他:民間企業、大審院判事、日本銀行理事
委員長の任期はあるのでしょうか。
委員長・委員の任期は5年です。また、定年は70歳です。
前任者が任期途中で辞任したり、定年を迎えたりした場合には、後任者の任期は前任者の任期の残りの期間になります。ただし、再任は制限されていません。
委員長・委員には身分保障があって、自ら辞任することはできますが、懲戒免職の処分を受けた時、禁固以上の刑に処せられた時、心身の故障によって執務を行うことができなくなった時など一定の場合を除いて、罷免することはできません。
委員長は、どのような仕事をしているのでしょうか。
委員長の主な役割は、合議体としての委員会の運営と行政機関としての「公正取引委員会」を対外的に代表することです。
委員会の会議では、排除措置命令や勧告の決定、委員会規則やガイドラインの策定、実態調査報告の確定その他の委員会としての意思決定が行われますが、委員長は、議長として議事を進行したり、委員会メンバーの一員として議論に参加したりしています。委員会の議決は、多数決で行われることになっていますが、賛否同数の場合には、委員長が決めることができます。
また、委員長は、国会での答弁、対外的な文書の発出(要請、要望、海外の競争当局との協力協定など)、海外の競争当局などとの意見交換・国際会議、記者会見、講演など、委員会を代表して対外的な活動を行っています。
委員長が職務を執れなくなった時に備えて、事前に委員長を代理する委員が指名されています。就任時期の早い委員が指名されることが多いようです。
公正取引委員会の他の委員はどうでしょうか。
委員は、裁判官、検察官、経済学者、行政官など多彩なバックグラウンドを持って委員会での議論、議決に参加しています。
また、委員は、国際会議などに出席するほか、独占禁止法・競争政策の広報・広聴活動の一環として、地方での講演会や有識者との懇談会などに年に数回出席しています。また、中学校、高等学校の生徒が公正取引委員会を訪れる庁舎訪問学習の際には、委員との懇談が行われています。
委員会は定期的に開かれているのでしょうか。
委員長・委員は常勤で、基本的には毎日公正取引委員会の庁舎に出勤しており、いつでも委員会の会議を開催できる体制にあります。上述のように外部での活動などもありますから、委員会の会議が毎日開催されているわけではありませんが、年間で100回以上開催されているようです。
委員長・委員は、身分・報酬が保障されている半面、政治活動、兼職、営利事業の実施などが原則禁止されていますので、委員長・委員としての業務に専念しています。
委員長が交代すると公正取引委員会の運用方針・政策も変わるのでしょうか。
委員会の意思決定は5人の委員長・委員の合議で行われますので、委員長が交代してもそれだけで委員会全体の方針が大きく変化することはないでしょうが、委員長がリーダーシップをとることで、例えば、法執行能力を強化する、国際的活動を展開する、先端産業への対策を進めるなど、その時々の政策方針が明確化されてきています。
新委員長がどのような点に関心を持っているかについては、国会で行われる所信聴取や就任時の記者会見の模様など公開されるほか、公正取引協会が発行している雑誌「公正取引」に新委員長の所信が掲載されることが多いので、こうした資料が参考になるでしょう。