第8回「日本の企業結合ガイドラインと垂直合併」
日本でも、昨年、合併ガイドラインが見直されました。
日本の公正取引委員会は、2019年9月に「企業結合ガイドライン」を改正しました。改正のポイントはいくつかありますが、垂直合併や混合合併に対する考え方を大幅に拡充したことは、大きな改正点です。
アメリカの垂直合併ガイドラインに載っている想定例を見ると、日本では混合合併に分類されているものも含まれているように思われますので、対比する際には注意が必要だと思います。
垂直合併や混合合併に対する考え方を拡充した理由は何でしょうか。
企業結合ガイドラインが作成された2000年ころは、他国の当局と同様に、垂直合併・混合合併が競争に及ぼす影響はそれほど大きくないととらえられていて、問題指摘を行った実例もあまりなかったことから、簡素な記述になっていました。しかし、その後、アメリカや欧州などと同様に、垂直合併・混合合併がどのように競争に影響を及ぼすかに関する理論的整理が進み、また、数が多いわけではありませんが、実際に問題指摘がなされる事案が出てきました。例えば、JXメタルズ/スタルクTaNb(半導体材料とその原料のレアメタル)、日立金属/三徳(磁石製造とその原料の合金)、クアルコム/NXPセミコンダクターズ(相互に補完的な携帯電話用チップの製造販売)といった実例があります。
企業に企業結合審査の判断の枠組みを提供するというガイドラインの役割から考えると、これまでの記載では不十分と判断されたものと考えます。改正後のガイドラインでは、垂直合併が競争に及ぼす影響を判断する枠組みとして、川上・川下の両方で活動することになる合併企業が、川下でのライバル企業に対して原材料の供給を拒絶しないか、川上でのライバル企業からのサービス提供を拒絶しないか、取引のあるライバル企業から得た秘密情報を使ってライバル企業に不利益を与えないか、といった観点が示されています。これに加えて、川上・川下の企業間や異業種間の合併においてデータの集積えおどう評価するかや、スタートアップ企業の買収による新規参入の阻止などについても考え方を示しています。
また、企業結合ガイドライン改正と同時に「企業結合審査の手続に関する対応方針」が改正され、届出基準に満たない合併等に関する対応方針が追加されましたが、これも、スタートアップ企業の買収などを念頭に置いたもので、垂直型・混合型の合併の規制に関連する動きです。
ところで、企業結合ガイドラインは、他のガイドラインに比べて難しく感じるのですが。
多くの独占禁止法のガイドラインは、基本的考え方をベースにして、独占禁止法上問題となる行為、問題とならない行為を例示するものが多く、その意味では分かり易く感じると思います。それに対して、企業結合ガイドラインは、合併に関連して競争関係に影響を及ぼす可能性のある要素や、それらがどのような形で競争に影響を及ぼすかについての分析の枠組みを提示して、当事者に自分で考え、判断してもらうという仕組みになっていて、どちらかといえば専門家に向けて作られていますので、ガイドラインを読んだだけでは分かりにくいと感じるのではないかと思います。
独占禁止法上問題となりそうな合併は、経営に大きな影響を及ぼすケースが多いでしょうし、場合によっては、問題解消措置の検討も必要になるかもしれませんので、経営陣も慎重を期して、専門知識のある社内の法務部門や社外の弁護士・コンサルタントなどにも関与してもらって検討を進めるべきでしょう。