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独禁法よもやま話(第5回)

第5回「バス事業・銀行の独占禁止法特例法」

キョウ子さん
 令和2年の通常国会で独占禁止法の特例法が成立しましたね。
どっきん先生
 「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」ですね。正式名称では長いので、「地域特例法」と言いましょう。
キョウ子さん
 地域特例法は、どのような内容なのでしょうか?
どっきん先生
 簡単に言えば、地域のバス会社や銀行が認可を受けて行う合併、株式取得等の企業結合や路線調整、運賃協定などを独占禁止法の適用除外とするものです。
キョウ子さん
 どうして地域のバス会社や銀行のために独占禁止法の適用除外が必要になったのでしょうか?
どっきん先生
 日本では少子高齢化や人口の大都市圏への集中が進み、特に一部の地方では人口減少などに伴い、その地方の交通機関や金融機関の経営体力が落ちて、地域の交通網や金融ネットワークを維持し続けることが困難な状況が現れています。地方のバス会社や地方銀行は、地域の生活や経済を支える基盤的なサービスを提供しているので、経営が行き詰まって破綻してしまうと地域に大きな影響を与えてしまいます。単独では生き残りが難しい状況を乗り切る経営体力をつけるために、地域内の同業者と一体になって経営統合や共同経営を進める必要性が高いのですが、独占禁止法違反に問われることを恐れて、そうした検討・実行を進められないのではないかとの懸念も出ていました(長崎県の地方銀行同士の統合案件の審査が長期にわたったことも、この懸念を強めることになりました)。
 そこで、事業者が安心して経営統合などを進められるように地域特例法が制定されました。
キョウ子さん
 いろんな産業で使えるのではないのですか?
どっきん先生
 法律の題名にもありますように、認可・適用除外を受けられる事業者は、主として一定の地域内で乗合バス・路線バスを運営するバス会社と融資などを行う地方銀行・第二地方銀行などの銀行に限られています。また、政令などで業種を追加指定する仕組みにはなっていません。
キョウ子さん
 なぜ、この2つの業種に限定されたのでしょうか?
どっきん先生
 上で説明したような地域における基盤的なサービスを維持する必要性が特に高く、主務官庁があって計画実施後の事業者の行動を監視しやすいと考えられたためです。独占禁止法の適用除外を例外的に認めるわけですから、それが簡単に広げられないように配慮されたものと考えられます。
キョウ子さん
 具体的には、どのようなことができるようになるのでしょうか?
どっきん先生
 独占禁止法に違反するかもしれない企業結合や共同経営協定です。
 例えば、地域内の有力な地方銀行同士が合併したり、同じ持株会社の傘下に入ったりすることが想定されます。バス会社でも同じような事業統合が想定されます。
 共同経営協定が行えるのは、バス会社だけですが、競合するバス会社間やタクシー・フェリーなどの他の交通機関との間で、定額運賃制のために運賃プールを実施する、減便などを通じ運行調整を行うことなどが考えられます。生活路線・航路の維持など一定の共同経営協定は、道路運送法や海上運送法でも認められていますが、地域特例法の方がより広範な内容を含めることができます。
キョウ子さん
 いつから実施できるのでしょうか?
どっきん先生
 地域特例法は、令和2年11月27日に施行されます。ただし、適用除外の対象となるには、あらかじめ計画を主務大臣に提出して認可を受けることが必要となります。
キョウ子さん
 競争上問題となるような計画が認可されることはないのでしょうか?
どっきん先生
 適用除外が必要な行為ですので、計画が実行されると競争は制限されることとなります。そこで、認可要件として、計画の必要性や事業継続の困難性、利用者への不利益がないことなどが求められていて、所管官庁である国土交通省や金融庁が認可後の実施状況の報告を受けて、監視・監督を行うことにもなっています。
 また、認可にあたっては、あらかじめ公正取引委員会に協議をする仕組みが盛り込まれていますし、認可後に認可条件に合わなくなった場合には、主務大臣は適合命令を出せるのですが、この命令を出すよう公正取引委員会からの措置請求も定められています。このように、地域特例法では、公正取引委員会との事前協議と事後の措置請求という仕組みを置くことで、競争政策とのバランスをとっています。
キョウ子さん
 今後、地域のバス会社や銀行が、事業統合や共同経営を行うには、必ず地域特例法の認可を受けなければならないのでしょうか?
どっきん先生
 必ずしも認可を受ける必要はありません。例えば、検討している共同経営の内容が独占禁止法違反にならないと考えるのであれば、そのまま実行することもできますし、懸念がある場合でも、これまでと同様に、独占禁止法上問題となるかどうか公正取引委員会に事前相談することもできます。また、企業結合も、通常通り、独占禁止法に基づき合併等の事前届出を出して、審査を受けても構いません。
キョウ子さん
 企業結合や共同経営が独占禁止法違反に問われないことのほかに、何かメリットはあるのでしょうか?
どっきん先生
 地域特例法が定めているのは、事業者が提出し、認可された計画通りに行われた事業統合などが独占禁止法違反に問われないことです。独占禁止法違反に問われる懸念がなくなることは大きなメリットになると考えられますが、地域特例法の中で他に何かメリットが定められているわけではありません。
 なお、認可された計画に基づく企業統合であれば、独占禁止法第4章に基づく公正取引委員会への事前届出は必要ありません。また、地域特例法の認可を受ければ、重複して道路運送法や海上運送法の認可を受ける必要はありません。
キョウ子さん
 地域特例法に基づく適用除外に、期限はありますか?
どっきん先生
 地域特例法は、施行日から10年以内に廃止することとされています。ただし、10年で自動的に効力がなくなるわけではなく、地域特例法を廃止するための法律が必要になります。
キョウ子さん
 地域特例法が廃止されたときに、それまでに実施した企業結合や共同経営は元に戻さなければならないのですか?
どっきん先生
 計画に基づき実施済みの企業結合については、完結してしまっていますので、そのままの状態を存続させることができるでしょう。
 他方、共同経営協定は、実施期間を計画に記載することになっていますから、認可の際に特例法が廃止される時期を見込んだ判断が行われると考えられます。また、想定より早く廃止された場合には、適用除外の効果がなくなりますので、そのままでは存続させることは難しいのではないかと思いますが、廃止法において実施中の共同経営協定が地域特例法廃止後にどう取り扱われるかについて何らかの手当てが講じられると考えられます。
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