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宮澤健一記念賞 第1回 受賞論文(小島 武仁 氏)

論題:“Axioms for Deferred Acceptance”

小島 武仁 氏 
 (Econometrica , Vol. 78, No. 2 (March 2010), pp633-653, (co-authored with Mihai Manea))

論文要旨

 本論文はマサチューセッツ工科大学のミハイ・マネア助教授との共同研究であり、マーケットデザインと呼ばれる経済学の新領域を対象としたものである。日本ではまだ馴染みのないこの分野はミクロ経済学、コンピュータサイエンス、応用数学などの学際分野であり、その名の通り、(広い意味での)市場がうまく働くためにはどのような制度を設計すれば良いかを研究する学問である。マーケットデザイン研究者達は伝統的な経済学で対象としてこなかった現実の社会問題を分析し、具体的な解決法を示すことに成功してきた。電波周波数帯オークションやインターネット上の広告オークション、労働市場、学校選択制、さらには臓器移植プログラムなどの分析や設計が行われており、応用先は数多い。
 さて今回の論文は、マーケットデザインの基礎理論の一つである「マッチング理論」を対象とする。マッチング理論ではその名のとおり、就職先を見つけたい人と労働者を探している会社などを引きあわせたり、限られた物的・人的資源を必要としている人々に分配する方法を研究する。
 マッチング理論の進歩により、労働市場や資源配分など多くのマッチング問題に有効な方法が明らかになってきている。この方式を「受け入れ保留方式(deferred acceptance algorithm)」という。この方式では、まず希望者と受け入れ相手がそれぞれ希望相手のランキングをマッチメーカーに提出する。それをもとにマッチメーカーがコンピュータなどで次のように仮想的な「就職活動」を模倣したシミュレーションを行う。まず、各受け入れ希望者は自分の第1希望の受け入れ先に応募する。各受け入れ先は応募者の中からトップの希望者を定員まで仮採用し、残りの希望者を不採用にする。不採用にされた希望者は、第2希望の受け入れ先に応募する。各受け入れ先は現在の仮採用者と新たな応募者全体からトップの希望者を定員まで仮採用し、残りの希望者を不採用にする。これを新たな不採用が出なくなるまで続け、その時点で仮採用を本採用に変更して採用先を決定する。この方式については様々な研究が行われており、マッチング結果に無駄がなく公平性が高いとされている。こうした優れた性質のためか、受け入れ保留方式は現実の制度設計にも適用され成功を収めている。例えばアメリカの医学会においてはこの制度が研修医の配属に1950年から使用され定着している。日本で近年導入され話題を呼んだ研修医マッチング制度もこの方式を導入したものである。さらに、日本でも全国で広まりつつある学校選択制に関しても、ニューヨークやボストンでこの受け入れ保留方式が採用されている。
 このように現実の制度設計に重要な役割を果たす受け入れ保留方式であるが、その理論的性質は必ずしも既存研究では明らかにされていなかった。そのような理論的基礎を提供することが本論文の目的である。具体的には、本論文は受け入れ保留方式を「公理化」した。「公理(axiom)」とはあるマッチング方式(今回は受け入れ保留方式)を特徴付ける(つまり、余す所なく記述する)ための性質のことを言い、「公理化」とはそのような公理を発見し、対象としているマッチング方式がこれらの公理で特徴付けされることを証明することを言う。そのために我々は「個人合理的単調性」と「弱マスキン単調性」と呼ばれる新しい公理を提唱した。これらの公理は、ノーベル賞学者マスキンが提唱した「マスキン単調性」を適切に修正したものである。我々の研究により、いくつかの弱い要請と個人合理的単調性や弱マスキン単調性によって受け入れ保留方式が公理化できることが明らかにされた。この研究はマーケットデザインに関する基礎的な理解を深めるものであり、今後の制度設計にも応用が期待される。
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