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横田正俊記念賞 第23回 受賞論文 (滝澤紗矢子 氏)

論題:「競争機会の確保をめぐる法構造(1)~(4)完)」

滝澤 紗矢子 氏 (東北大学大学院法学研究科准教授)
(法学協会雑誌(1)第124巻第5号・2007年5月,(2)第124巻第7号・2007年7月,(3)第124巻第8号・2007年8月,(4)完 第124巻第9号・2007年9月)

論文要旨

本論文は、ある市場において複数事業者が各自の意思決定に基づいて並行的に排他的取引方法を実施することにより、当該市場もしくは関連する他の市場において競争機会が十分確保されなくなっていると評価される場合に、競争の観点からいかなる法規制を行うべきか、という問題を検討対象としている。
 上記問題は、日本独禁法において、19条で禁止される不公正な取引方法(2条9項)のうち、典型的には「排他条件付取引」、より具体的には一般指定10項、11項、13項、15項等に該当するか否か、という形で議論される。しかし、この問題は従来競争上の弊害として認識され、規制に積極的な議論が多数を占めてきたにもかかわらず、実際に規制を及ぼすに耐えうる法解釈論が精緻化されていない状況にある。すなわち、複数事業者が共同して、もしくは単独であっても市場支配的事業者が排除行為を行うことによって、十分な正当化理由なく市場の競争機会が確保されなくなる場合、これを違法なものとして規制する点ではほとんど異論がない。他方で、並行的に一定の取引方法が採られることにより競争機会の観点から無視し得ない排除効果が累積的に生ずるとすれば、それはいかなる場合であって、競争上の弊害はどのように認定されるのか、また違法性の範囲はどこまでなのか、さらには、競争上の弊害を除去するためにいかなるエンフォースメントを仕組みうるか、仕組むべきか、といった点に関する議論は不十分なまま今日に至っている。従って、上記問題を解決するためには、並行的排除行為から生じた累積的市場閉鎖効果が公正競争阻害性(もしくは競争の実質的制限)を充たすか否かという弊害要件の解釈論、とりわけ排除行為と弊害との間の相当因果関係に関する判断枠組、及びエンフォースメントの構想手法といった法律論を精緻化する必要がある。
 本論文は以上の問題意識から、アメリカ法の歴史研究を行った。検討の中心に置いたのは、上述の問題に正面から取り組み、クレイトン法3条(アメリカ反トラスト法において、日本独禁法の不公正な取引方法のうち一般指定10項、11項等にほぼ対応する)弊害要件の解釈をめぐって各意見の間に先鋭な対抗関係を見出すことができるStandard Oil Co. of California and Standard Stations, Inc. v. United States,337 U.S. 293 (1949) である。具体的にはまず、判決のテクスト分析を通じて、フランクファーター法廷意見の論理構成と法解釈思考、及びその背後にある市場観を読み解き、ジャクソン、ダグラス両反対意見との対抗関係を析出した(第一章)。次に、そうして把握された同判決の構造と基盤について、その成立に至るまでの歴史的展開の重層性を考察し、各要素の系譜を明らかにした(第二章)。一方で、同判決が活ける法としての地位を失っている現状に鑑みて、同判決の受容過程を考察し、その理由を探求した(第三章・第四章)。
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