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横田正俊記念賞 第38回 受賞論文 (宍戸 聖 氏)

論題:「私的独占における排除概念の再構成」

宍戸 聖 氏(成蹊大学法学部准教授)
「私的独占における排除概念の再構成」商事法務(令和4年)

論文要旨

 独禁法は「他の事業者の事業活動の排除」を通じた私的独占を禁止している。学説上、この「排除」とは他の事業者の事業活動を継続困難にさせること等であると説明される。しかし、良質廉価な製品の提供といった独禁法が促進すべき競争の結果としても他の事業者の事業活動が継続困難となること等はある。したがって、日本の私的独占規制においては正常な競争を通じた排除と不当な「排除」との識別が重要課題となっている。
 この難問に取り組むためには、そもそも何をもって「不当」といえるかを考える必要がある。
 そこで、本書では、まず、排除の不当性の基礎となる概念として経済厚生概念があることを示し、競争者排除型行為規制における上記概念の位置付けを明らかにした。そのうえで、不当廉売と単独の取引拒絶の2 種類の行為に焦点をあてて、これらの行為がなぜ不当と言えるのかを検討し、不当性評価枠組みの提案及びこれまで認識されてこなかった規制上の課題の提示を試みた。
 本書の結論は、端的には、排除の識別は究極的には行為の経済合理性(行為が反競争的利益の獲得のみに向けられたものかどうか)に着目して行われており、その評価においては行為の戦略的態様の評価が重要になるというものである。本書では、係る戦略的態様の評価において行為者の意図に関する証拠が重要な意味を持つと論じた。
 本研究の主たる意義は、各国の学説・判例においてその証拠としての役割が軽視されてきた行為者の意図に関して、一部の判例実務では学説の批判にもかかわらず意図の考慮が依然として行われてきたという事実に理論的な説明を与えた点と、実際に意図の考慮が重要になる場面があるということを経済学の理論も踏まえて明らかにした点にある。
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