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独禁法よもやま話(第23回)

第23回「AIと競争政策」

キョウ子さん
 近頃、AIという言葉が様々なメディアで取り上げられていますね。
どっきん先生
 特に最近は、生成AIと言って、大量のデータをもとに人間が作成するような文章や画像、音声などを自動的に作成するようなものについて紹介されることが多いですね。これまで、一部の人たちしか利用できなかった生成AIがChatGPTのように誰でも使えるようになったという点が、大きな関心を集める契機となったのかもしれませんね。
キョウ子さん
 このAIについて、競争政策の観点からはどのような関わりがあるのでしょうか。
どっきん先生
 生成AIに限らず広くAI全般について、最近、海外の競争当局も大きな関心を寄せている分野ではないでしょうか。英国の競争当局(CMA)もこの5月初めにAIについての初期調査を開始すると発表しました。AIが市場の競争にどのような影響を及ぼすのか、消費者保護の観点も含めて調査するようです。また、米・EU競争当局も注視しています。
キョウ子さん
 AIについて公正取引委員会においてもこれまで調査をしたことがあるのですか。
どっきん先生
 生成AIとは少し異なりますが、令和3年3月31日にデジタル市場における競争政策に関する研究会の報告書として、「アルゴリズム/AIと競争政策」を公表し、特にアルゴリズムがもたらす独占禁止法上の問題点について分析しています。
キョウ子さん
 アルゴリズムとはどのようなものですか。
どっきん先生
 報告書では、「入力を出力に変換する一連の計算手順」と定義しています。例えば、競争事業者の価格を収集して,それに対応して自社の価格を設定したり,需要を予測した上で販売量を最大化する価格を設定したりするためにアルゴリズムが用いられるとしています。また、ランキング表示などでもアルゴリズムが用いられていますね。
キョウ子さん
 なるほど。このアルゴリズムについて、具体的にはどのような点が独占禁止法上の問題として挙げられているのですか。
どっきん先生
 例えば、アルゴリズムを利用した協調的行為と単独行為を挙げています。
 協調的行為については、①監視型アルゴリズム、②アルゴリズムの並行利用(ハブアンドスポーク型)、③シグナリングアルゴリズム、④自己学習アルゴリズムという4つのタイプに分けて具体的に説明しています。
 ①では、事業者が競争者の価格情報を収集するためにアルゴリズムを用いることがありますが、価格カルテルの実効性を確保するためにこの価格調査アルゴリズムを使うような場合が考えられます。また、②では、同一の事業者が提供する価格設定アルゴリズムを複数の競争事業者が用いると、各事業者の価格が同一になる可能性があります。
 ③では、ある事業者が値上げのシグナリングを行う場合に、競争事業者の反応を確認するためのアルゴリズムを用いることがあります。④のケースで言えば、事業者が自己学習型のアルゴリズムを採用した場合、各社のアルゴリズムが相互作用をもたらして、結果的に一定以上の価格を設定するようなことも考えられます。
キョウ子さん
 アルゴリズムを利用した協調的行為といっても、いろいろなケースがあるのですね。このような行為が独占禁止法上、どのように問題となってくるのですか。
どっきん先生
 事業者の協調的行為が独占禁止法で禁止されている不当な取引制限(カルテル)と言えるためには、事業者が「共同して」、つまり、事業者間の「意思の連絡」が必要となります。それぞれのケースにおいて、この「意思の連絡」があると言えるかどうかが問題となってきますが、報告書ではこの点を中心に分析しています。
キョウ子さん
 ④の自己学習型のアルゴリズムについては、意思の連絡があるとはなかなか言えない気がしますが。また、そもそも、各社の自己学習型アルゴリズムの中身がどのようなものなのか、調査する側が分かるものなのでしょうか。
どっきん先生
 そうですね。ブラックボックス化されたアルゴリズムをどのように解明するかという問題があります。また、この自己学習型のアルゴリズムはまさに今話題になっている生成AIとも関係してくるのかもしれませんね。
 なお、このアルゴリズムと協調的行為に関する問題については、2010年代後半からOECDや欧州各国も関心を寄せていたもので、それぞれ報告書などが出されています。デジタル分野の発展の中で今後生じるであろう論点として各国競争当局が関心を持ち、研究を進めていたということです。
キョウ子さん
 以前から競争当局の関心を集めていたのですね。
どっきん先生
 当時はまだ将来的な課題のような形で理解されていたのかもしれませんが、最近のAIの進展振りを見ると、まさに現実の問題となりつつあるように思います。
キョウ子さん
 アルゴリズムと単独行為については、どのような問題があるのですか。
どっきん先生
 公取委の報告書ではいくつか取り上げているのですが、例えば、先ほどのランキングサービスの問題があります。ランキングサービスには、インターネット上に存在するコンテンツの検索サービスや,オンラインモール上のランキング,比較ショッピングサイト上のランキングなどがありますね。
 そして、このランキングサービスを運営している事業者自身が、自らが提供する商品・サービスのランキングを行う場合があり、その際に自社商品等を恣意的に上位に持っていくような場合に、独占禁止法上の取引妨害などの問題が出てくるとしています。この他、ランキングサービスの運営事業者の行為によっては、差別的取扱いや優越的地位の濫用の問題もあるとしています。
キョウ子さん
 AIやアルゴリズムなど企業が独占禁止法上の問題を意識していないところで問題が生じないようにしないといけないですね。
どっきん先生
 そうですね。そのため、各国競争当局も実態調査を行うなどして問題点がないか調べ、広く周知しているものと思われます。ただ、最近の動きを見ていると、アルゴリズムの問題だけでなく、AIをサービスとして提供する分野などの市場構造がどのようになっていくのかという点などにも関心を持っているように思いますね。
 なお、これまでの話とは少し離れますが、米国の連邦取引委員会(FTC)は、AIを用いた製品と謳う広告について、本当にAIを使っているのか、AIを用いた効果に根拠があるのかなど欺瞞的なものとならないよう警告を発しています。
キョウ子さん
 消費者もAIと聞けば、何か優れた製品のようなイメージを持つかもしれませんね。
どっきん先生
 AIについては、競争上の問題だけでなく広く社会に影響を与えるものであり、今後も注目していかなければなりませんね。
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